●○● 天声人碁 ●○●


2003年10月

◎2003/10/28 「名人戦第5局/依田名人が4連覇」

 10/22・23、山梨県甲府市で打たれていた第28期囲碁名人戦七番勝負の
第5局は依田紀基名人(37)が挑戦者の山下敬吾棋聖(25)に黒番中押し
勝ちし、対戦成績を4勝1敗として、4連覇を達成した。

 名人4連覇は、7連覇の小林光一九段、5連覇と4連覇の25世本因坊趙
治勲に次いで史上3人目。

 名人初挑戦の山下棋聖は、今春の棋聖奪取に次ぐビッグタイトル獲得に失
敗した。

 第5局。棋聖が封じ手の白64から優位に立ったが、左上で白の無条件生
きの手を見損じて勝利を逃した。「錯覚していました」。あっけない幕切れに
なった。

 攻めにかけた挑戦者。第3局で自慢の厚みを盤面全体に生かしたものの、
総じて名人に持ち前の腕力を封じられた。

<依田名人の話>
うれしい。山下君独特の打ち方など勉強になった。5連覇は先のことです。

<山下棋聖の話>
内容が全然良くなかった。とくに序盤戦が全体に甘くて、ダメでした。

                    ----朝日新聞より抜粋----


         ◇  ◇  ◇  ◇

勝負のポイントは死活の見損じのようでした。
アマとは次元の違う、プロ独特の思い込みがあるんですね。

予想では山下棋聖の勢いが有望との声が大きかったように思いましたが、
名人の4勝1敗と片寄った結果となりました。
依田名人の円熟した芸が若手の力をうまく押さえたということでしょうか。

第1局後、23世本因坊・坂田栄寿さんが雑誌で書いていました。
「今回、依田さんには頑張って欲しい。山下くんを楽に勝たせてはいけない。
それが先輩としての使命です。」

         ◇  ◇  ◇  ◇

今回の対局地は山梨県甲府市。甲府といえば、なんといっても武田信玄公。
戦国武将の代表として全国にその名をとどろかせました。

囲碁界ではどうでしょうか。中堅世代の「依田名人・碁聖」、「王立誠十段」、
「王銘エン王座」対、若手の「山下棋聖」、「張栩本因坊」、「羽根天元」等
の世代間闘争がしばらく続くように思われます。


◎2003/10/22 「名人戦第4局/依田名人勝利、防衛まであと1」

 10/15・16、静岡県熱海市で打たれていた第28期囲碁名人戦七番勝負の
第4局は白番の依田紀基名人(37)が挑戦者の山下敬吾棋聖(25)に3目半
勝ちし、対戦成績3勝1敗で、名人4連覇にあと1勝と迫った。
第5局は10/22・23の両日、甲府市で。

 相手の模様を巧みに削った依田名人が、接戦をものにした。

 解説の中野寛也九段は「名人の緩急自在の打ち回しが光った。棋聖も特に
悪い手はなく、目いっぱい頑張った。名人のうまさが紙一重、上回った」と話し
た。

<依田名人の話>
1日目は悪いと思っていた。右上を荒らして、ようやく勝ちが見えた。

<山下棋聖の話>
最初が甘すぎ、中央も地がつきそうになかった。次は自分の力を出し切りたい。

                    ----朝日新聞より抜粋----


         ◇  ◇  ◇  ◇

前半は山下棋聖の中央厚みが大きく、有利と思っていましたが依田名人の
模様の消し方がうまく、最後は細かい碁を寄り切ったようです。

劣勢を耐えた依田名人のしぶとさが光ります。
私などは形勢かんばしくないと思った場合、無理を承知で勝負にいき玉砕と
いうケースがなんと多いことか・・・ 耐え忍ぶ精神力も大切ですね。

         ◇  ◇  ◇  ◇

今回の対局地は静岡県熱海市。高度成長時代、熱海は首都圏からの団体客
で大盛況でした。新婚旅行で人気の時代もあったようです。

しかし、余暇の多様化で団体客が減り熱海の観光産業は大変のようです。
いかに特長を出してお客のニーズにこたえるかが課題ですね。

囲碁界もたくさんの人達が楽しめるように、そして囲碁を始めたい人がスムース
にとけ込める環境作りが大切だと思います。


◎2003/10/21 「桐山杯、加藤九段が優勝」

 阿含・桐山杯第10期全日本早碁オープン戦の決勝は10月13日、京都市
山科区で行われ、加藤正夫九段が張栩本因坊に白番中押し勝ちを収め、
7期ぶり3回目の優勝を飾った。張は2期連続で準優勝となった。

              ----毎日新聞より抜粋----


         ◇  ◇  ◇  ◇

張栩本因坊と加藤正夫九段、今年は「本因坊戦七番勝負」、「王座戦挑戦者
決定戦」といずれも張栩本因坊が加藤九段を破ってきました。

加藤九段にとって張栩本因坊は天敵のようですが、やっと早碁オープン戦で
雪辱しました。

20歳以上違う若手との対戦、ベテランとしては苦しいでしょうね。特に持ち時間
が長い棋戦では体力的に負担だと思います。

その点、早碁棋戦なら大丈夫ということでしょうか、加藤九段の快勝に中年ファ
ンとしては拍手を送りたいと思います。

これからも色々な棋戦で世代間の戦いが続くでしょうが、互いに切磋琢磨して
日本囲碁界のレベルアップを図ってほしいと思います。


◎2003/10/12 「天声人語(棋風)」

朝日新聞の「天声人語」より棋風についてのコラムが載っていましたので紹介
します。

政界でも結構囲碁ファンは多いものですね。ただ囲碁のように白黒ハッキリ
決着しない問題が山積しているようで・・・

         ◇  ◇  ◇  ◇

 殺し屋。コンピューター。二枚腰。宇宙流。美学派。こうやって並べていって、
顔が一人ひとり浮かぶ人は、相当囲碁に詳しい人だろう。プロ棋士の個性、い
わゆる棋風を一言で表現した呼称の数々である。

 石の奪い合いをしながら、最終的にはどれだけ地(じ)を囲ったかを争う。
「殺し屋」や「コンピューター」はどんな棋風か見当がつくだろう。「宇宙流」
といわれる
武宮正樹さんは、細部にこだわらず、おおらかでときに予想外の
手が飛び出す。「美学派」といわれる
大竹英雄さんは、勝敗より石の流れの
美しさを重んじる。

 政治家にも囲碁好きは多い。古くは五・一五事件で暗殺された
犬養元首相
がよく知られる。彼より強い政治家はいるだろうが「彼ほど碁品がある碁を打
つ人はいない」と評されたそうだ(『三田評論』7月号で川又邦雄氏)。

 戦後でいえば、
福田元首相が八段という高段者だった。ロッキード事件のと
きの法相
稲葉修氏は六段だった。しかし「国会議員の段位はあてにならない」
といい、福田元首相には3目置かせるから、自分は十一段になってしまう、と。
政治家にはときに「名誉段位」が贈られる。

 国会論戦を聞きながら、棋風を思い描いた。民主党の
菅代表はコンピューター
とまではいえないが、計算ずくの攻撃を仕掛けた。いわば緻密(ちみつ)派か。
防戦の
小泉首相は宇宙流とまではいえないが、得意の場面で跳びはねる飛躍
流を見せてくれた。

 菅代表は
小沢一郎氏とは囲碁仲間だそうだ。緻密派と剛腕流が組んで、
小泉飛躍流を打ち落とすことができるか。


                    ----朝日新聞より----


◎2003/10/09 「女流本因坊戦第1局/矢代五段が先勝」

 囲碁の小林泉美女流本因坊に矢代久美子五段が挑戦する第22期女流
本因坊戦の挑戦手合5番勝負・第1局は10/2、岩手県花巻市・花巻温泉で
打たれ、矢代五段が黒番中押し勝ちした。

 第1局は序盤、小林女流本因坊の実利対矢代五段の模様の戦い。片岡
九段によると、右上隅の白40の切りが上手く行かず、黒が優勢となった。
ヨセに入り、難しい碁が続いたが、中盤の黒のリードで逃げ切った。
第2局は16日、神奈川県秦野市で行われる。

<矢代五段の話>
 右辺で得をして中盤のあたりではいいと思っていた。ヨセがまずく、最後は
訳が分からなくなってしまった。

<小林女流本因坊の話>
終始難しい碁だった。はっきり悪い時もあったが、そのあとで正しく打てば白
が面白い場面もあったと思う。

                    ----岩手日報より抜粋----


         ◇  ◇  ◇  ◇

名人戦と並行して行われている「女流本因坊戦」、挑戦者の矢代五段の先勝
ですか。現在、女流のタイトルは以下のようになっています。

◆女流本因坊 小林泉美
◆女流名人 小林泉美
◆女流鶴聖 大沢奈留美
◆女流棋聖 知念かおり
◆女流最強 岡田結美子

小林女流本因坊は2冠を制し、女流トップの座にいます。
祖父は昭和前半の大棋士、故木谷實九段。父は小林光一九段、母は故小林
禮子七段と碁界のサラブレッドといえるでしょう。

一方の矢代五段、特に師匠とかはいないようですが今後の飛躍が期待される
若手の成長株でしょう。

小林女流本因坊は名門の出身ゆえに、「碁=芸」という意識があるのではない
でしょうか。
対する矢代五段は現代の颯爽としたOLのような感じで、碁を楽しんでいるよう
にも見えます。

名人戦の重厚な雰囲気とは違い、華やかさがある女流戦。楽しみですね。

         ◇  ◇  ◇  ◇

今回の対局地は岩手の花巻温泉。以下、花巻観光協会HPより

花巻市は人口約7万3千人で、西部山沿いに12の温泉群を有し、宮沢賢治、
高村光太郎、新渡戸稲造父祖等の先人ゆかりの地として、年間270万人を
超える観光客が訪れます。


春の新緑、秋の紅葉。のんびり温泉でもつかって囲碁仲間と対局。
そんな旅ができることを願って・・・


◎2003/10/07 「名人戦第3局/山下、待望の初勝利

 島根県出雲市で打たれていた第28期囲碁名人戦七番勝負の第3局は、
挑戦者の山下敬吾棋聖(25)が依田紀基名人(37)に白番2目半勝ちし、
対戦成績を1勝2敗とした。
第4局は15、16の両日、静岡県熱海市の「あたみ石亭」で。

 山下棋聖は初日に築いた左辺の厚みを生かして、2日目も堅実に打ち進
め、攻勢をかけた依田名人に対して、上辺や右辺、右下でうまく立ち回った。
その後、細かいヨセ勝負となったが、下辺の白154抜きで優位を確実にし、
懸命に追い上げを図った名人を振り切った。

 解説の結城聡九段は「山下棋聖の持ち味の手厚い打ち方が目立った。
下辺の攻防で名人には、もう少し厳しく攻める手があったように思う。
終盤まで難解な局面の続く熱戦でした」と話した。

<依田名人の話> 
 1日目に左辺で白を厚くして、良くなかった。追い込みも難しかった。

<山下棋聖の話> 
 1日目にちょっといいかなと思ったが、2日目は全く形勢不明でした。

                    ----朝日新聞より抜粋----

         ◇  ◇  ◇  ◇

山下棋聖、1・2局は気負いがあったのでしょうか、力を十分出し切れず敗れま
したが、第3局は本来のスタイルで1勝を返しました。

これで本シリーズは面白くなりました。7番勝負のキーポイントは第4局といわ
れています。
第3局でイヤな流れをくい止めた山下棋聖がタイに持ち込めば、気分的に乗っ
てくるでしょう。
一方、依田名人が勝てば3勝1敗とカド番に追い詰め、名人防衛が有力となり
ます。第4局はどんな展開になるか、楽しみです。

         ◇  ◇  ◇  ◇

今回の対局地は出雲大社で有名な島根県出雲市。日本最古の神社で縁結び
の神さまといわれています。
日本には色々な神さまがいますが、拝んで夢が叶うならこんな楽なことはことは
ないのですが・・・
でも、「想いの強さ」が夢に近づくというのは確かだと思います。

島根県は碁神「本因坊・道策」ゆかりの地ですね。プロ棋士の中でも道策の
棋譜を研究する人が多いと聞きます。

今回の名人戦現地大盤解説はご当地出身の神田英九段、桑本晋平五段。
桑本プロには私たち囲碁部の指導碁でもお世話になっています。


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