●○● 天声人碁 ●○●


2003年12月

◎2003/12/29 「女流最強戦決勝戦/鈴木歩三段 初優勝 」

 12月22日に行われた第5期女流最強戦決勝戦は、新鋭・鈴木歩(あゆみ)三段(20)が
ベテラン・中沢彩子五段(32)を黒番11目半勝ちで下し、初優勝した。鈴木歩三段は「決し
て好調ではないのに急所だけ勝って…」と喜びを語った。

 ともに初の決勝戦進出。プロ3年目の鈴木が、女流本因坊と女流鶴聖各2期の実績を
持つ中沢を破った。


             ----2003/12/25、朝日新聞より抜粋----

         ◇  ◇  ◇  ◇

鈴木三段はNHK囲碁番組の聞き手役の万波佳奈二段と同世代でライバルだそうです。

女流囲碁界は小林泉美女流名人・本因坊が抜きんでているようですが、鈴木三段はじめ
若手棋士もがんばってほしいと思います。

         ◇  ◇  ◇  ◇

鈴木三段は小学生3年のときアマ初段くらいから1年で4、5段の実力になったそうです。

うらやましいですね。私などはもう20年近く3、4段のままです。
強くなろうという意欲はあるのですが、意欲だけではね・・・


◎2003/12/21 「天元戦第5局/羽根天元がタイトル防衛 」

 第29期天元戦五番勝負の第5局は12/18、徳島市で打たれ、白番の羽根直樹天元(27)が
挑戦者の山下敬吾棋聖(25)に6目半勝ちし、3勝2敗でタイトルを防衛、3連覇を達成した。

 最終局は序盤から息もつかせぬ戦いの連続となり、難解な攻防が全局に波及した。控室でも
「分からない」と判断がつきかねた。しかし、中盤白がコウを解消したあたりから白乗りのムード
になり、以下は羽根が正確な寄せで逃げ切った。

 両雄は天元戦に加え、新年から始まる棋聖戦7番勝負でも激突。立場を入れ替えての“12番
勝負”として注目され、その第一幕ではタイトルは動かなかった。

<羽根直樹天元の話>
 左上隅は何度か錯覚があり、取られては悪いと思いました。五番勝負は勝てると思っていな
かったのでうれしい。力を出し切れました。

<山下敬吾棋聖の話>
 左上隅は取ってもいいと思っていませんでした。負けた碁はどうしようもなく、勝った碁も逆転
でしたので、この結果は仕方がありません。

        ----徳島新聞より抜粋----

         ◇  ◇  ◇  ◇

羽根天元のタイトル防衛で決着した天元戦、どの局も乱戦模様で見ごたえのある五番勝負でした。
来年1月から両者立場を入れ替えての棋聖戦7番勝負、今度は二日制の対局となりますがこちら
も見逃せない勝負です。

         ◇  ◇  ◇  ◇

今回対戦した羽根天元、山下棋聖はじめ最近の若手は対局姿勢はもとより、盤を離れての言動も
優等生に見えます。敗れたときも淡々と紳士的です。

これまで囲碁界をにぎわした坂田栄男、藤沢秀行、趙治勲などは「勝負師」という熱さが伝わって
きました。特に敗戦の悔しさは悲壮感さえあり周囲はずいぶん気をつかったと思われます。

どちらがいいという問題ではありませんが、感情をを前面に出すのも人間的かな・・・

         ◇  ◇  ◇  ◇

今回の対局地は「阿波踊り」で有名な徳島県。私も10月に徳島県に行ってきました。

「ねんりんピック(全国健康福祉祭)」が今年徳島県で来年は群馬で開催されます。各種イベントが
ありますが、「囲碁」の交流大会もありその視察に行ってきました。

囲碁の開催地は徳島県南端の海南町というところでした。自然に恵まれた昔ながらのよき田舎町と
いう感じですが、ホッとする何かあるような気がします。


◎2003/12/18 「三星火災杯世界オープン戦 趙治勲がV 」

 囲碁の第8回三星火災杯世界オープン戦決勝三番勝負の第3局が12/11、 韓国・慶山市で
行われ、二十五世本因坊治勲が朴永訓(パクヨンフン)四段に白番中押し勝ち、
対戦成績を2
勝1敗として初優勝を飾った。自らのタイトル・優勝回数の最多記録を66へ更新した。


 国際棋戦での日本勢の優勝は、00年の王立誠十段(中国の春蘭杯世界選手権戦)以来。
二十五世自身は、
91年の世界選手権戦・富士通杯以来の優勝。二十五世は「いつも、これが
最後の国際棋戦と思って打ってきた。
優勝はプレゼントされた感じ」と喜びを語った。

             ----2003/12/12、毎日新聞より抜粋----

 「名人、本因坊、棋聖の国内3大タイトルのどれかを持っていて、その上で国際戦優勝となれば
層値打ちがあるんだけれど。今の僕は無冠。その分、無欲で打てたのが良かったのだろう」

 決勝三番勝負の相手は韓国の新鋭・18歳の朴永訓四段だった。日本も25歳の山下敬吾棋聖、
23歳の張栩(ちょうう)本因坊ら若手が出てきているが、「韓国の方はもっと若くて強いのが 次々出
てくる。うかうかしてられないよ」。


             ----2003/12/07、朝日新聞より抜粋----

         ◇  ◇  ◇  ◇

国際棋戦では不調の日本でしたが、趙治勲さんがやってくれました。若手全盛の国際棋戦で47歳
の趙さんが優勝ですからね。すばらしいことです。

中国・韓国では十代〜二十代の棋士が活躍の中心ですが、日本では二十代〜六十代まで選手寿
命が長いといえます。
若手全盛の世界もいいですが、選手寿命が長いというのは囲碁界にとって喜ばしいことだと思います。

主な国際棋戦 主催国 優勝者 年齢
富士通杯世界選手権 日本 李世ドル(韓国) 20
トヨタ&デンソー世界王座戦 日本 李昌鎬(韓国) 28
三星火災杯世界オープン戦 韓国 趙治勲(日本) 47
LG杯世界棋王戦 韓国 李世ドル(韓国) 20
春蘭杯 中国 李昌鎬(韓国) 28
テレビ囲碁アジア選手権戦 日中韓 周鶴洋(中国) 27



◎2003/12/12 「名人戦リーグでいす対局スタート」

 12/4、日本棋院で始まった第29期囲碁名人戦挑戦者決定リーグで、初の「いす」対局が
実現。
和室での対局が伝統だった囲碁の世界の中でも格式ある名人戦、本因坊戦、棋聖
戦のリーグ戦
に、いよいよ洋風が及んできた。

 名人戦リーグ参加9人のうち、いす対局希望は今のところ趙治勲、林海峰の両氏。生活の
洋風化
に加え、オールいすの韓国や中国などとの国際棋戦が増えるにつれ、いすの抵抗感
は薄れている。


             ----2003/12/04、朝日新聞より抜粋----

         ◇  ◇  ◇  ◇

囲碁も国際化の流れの中ではやむをえないでしょう。韓国や中国の棋士が和室で対局という
図は想像できないですからね。

でもタイトル戦などは残してほしいような気もします。江戸時代から続いてきた和室での対局
風景が無くなるのは寂しいですね。

最近、宿泊施設なども純和風の旅館が見直されているようです。仕事の延長線のような場合
はホテルの方が適していると思いますが、旅行などでゆっくりとくつろぎたい場合は和風の方
が合っているように思います。(年齢にもよりますが・・・)

色々な分野で「和と洋」が存在しますが、日本のよき伝統を残すことも文化国家の使命だと思
います。


◎2003/12/10 「天元戦第4局/山下勝ちタイに」

 神戸市中央区で12/4、打たれていた「第二十九期天元戦」の五番勝負第四局は挑戦者
の山下敬吾棋聖(25)が羽根直樹天元(27)に白番中押し勝ちした。対戦成績は二勝二敗
のタイとなり、タイトルの行方は十八日、徳島市での最終局に持ち越された。

 序盤は羽根が実利に走り、山下が厚みで対抗する、両者の棋風通りの展開。羽根は三隅
を取り、地合いで優勢に立ったが、山下が猛追しいったん逆転した。
しかし、山下の攻め損ないで形勢は紛れた。それでも山下が中央の黒石の眼を奪うなど攻め
続けるうちに、羽根がしのぎを誤り黒の大石が取られ、最後は羽根が投了した。

<山下敬吾棋聖の話>
 最初から悪い碁でしたが、中央で攻めに出たときは面白くなったかと―。
しかし黒に生きられてはいけないと思いました。最後、急所を切って勝ちになりました。

<羽根直樹天元の話>
 中央の黒はもっと丁寧に逃げるべきで、かなりいじめられました。
中央下の黒が生きれば残りそうとは思いましたが、取られてはダメです。

        ----神戸新聞より抜粋----

         ◇  ◇  ◇  ◇

天元戦五番勝負、山下棋聖が2勝2敗に戻し最終第5局の決着となりました。
過去の対戦成績からすると山下、最近の安定感では羽根、どちらが勝つか楽しみです。

第3局に続き今回も乱戦模様の1局でした。観戦者としては地合いの勝負より乱戦の碁の
方が面白いですね。そういう意味では山下棋聖の碁は見ごたえがあります。

アマチュアも乱戦が好きな人が多いと思います。(一部の高段者は別でしょうが)
私自身もヨセの碁になったら自信は持てません、乱戦は歓迎です。

囲碁はともかく人の生き方はどうでしょう。比較的「平穏な人生」と「波乱万丈の人生」。
ただ、相手や周囲の状況により自分だけでは選択できないケースも多いですね。
できれば乱戦は避けたいと思いますが・・・


◎2003/12/08 「王座戦第4局/張本因坊、3連勝で初の王座を奪取」

 王銘エン王座に張栩本因坊が挑戦していた第51期囲碁王座戦五番勝負の第4局が
12/4、
宇都宮市で打たれ、黒番の張本因坊が半目勝ちした。 張本因坊は対戦成績を
3勝1敗とし、初めて王座のタイトルを奪取。本因坊とあわせて2冠となった。


 左上で始まった競り合いが上辺一帯から右辺へと波及。これまでの3局が「王の模様
対張の実利」
だったのとは打って変わって、微妙な駆け引きの伴う難解な攻防が続いた。

 中盤、戦いの主導権を白(=王王座)が握る格好に。「白が打ちやすい」 との声が強かった
が、張本因坊も驚異的な粘りを見せ、難しい終盤戦に突入。
最終盤で王王座にやや疑問手
が出たこともあって張本因坊が逆転に成功。そのまま細かい
勝負を制し、タイトルをつかみ
取った。


 王王座は第1局を勝って幸先よいスタートを切ったものの、第2局以降、本来の粘り強い
碁が見られず、昨年、趙治勲王座(当時)から奪ったタイトルの防衛に失敗した。

<張栩新王座の話>
 「すごく勉強になった」
 今日の碁は内容が悪く、反省すべき点がたくさんあります。最後の最後まで、 勝ちかどうか
分かりませんでした。


 (これで2冠になりますが)実力的にはまだまだなので、もっと勉強しないといけません。

             ----2003/12/04、日経NETより抜粋----

        ◇  ◇  ◇  ◇

張栩本因坊が3勝1敗で新王座となり、2冠となりました。
淡路九段が驚異的な粘りを “張スペシャル” といってましたが、あの逆転力はすごいですね。
今後、3冠、4冠と狙っていくでしょう。まだ23歳ですからね。

一方、王座を奪われた王銘エン九段、今回の第4局敗戦は悔やまれます。何度も勝機を逃し
ての半目負けですからね。
しかし、王銘エン九段の個性的な碁や独特の解説にファンも多いと思います。是非タイトルを
取ってほしいですね。


これで7大タイトルは下表のようになりました。ずいぶん若くなりましたが中堅・ベテランにも
がんばってほしいと思います。

タイトル名 タイトル者 年齢
棋聖 山下 敬吾 25
名人 依田 紀基 37
本因坊 張 栩 23
十段 王 立誠 45
天元 羽根 直樹 27
王座 張 栩 23
碁聖 依田 紀基 37

        ◇  ◇  ◇  ◇

今回の対局地は宇都宮市。「餃子」で有名になりましたが消費量が日本一で、たくさんの
餃子店がひしめいているそうです。

また「カクテル」の街で国内はもとより、海外のコンクールで優勝したバーテンダーが日本
一多いそうです。


◎2003/12/03 「天元戦第3局/羽根天元が2勝目」

 羽根直樹天元に山下敬吾棋聖が挑んでいる囲碁の第二十九期天元戦五番勝負
の第三局が11/27、長崎市であり白番の羽根が中押し勝ち、通算成績を二勝一敗
とし三連覇にあと一勝と迫った。第四局は十二月四日、神戸市で行われる。

 序盤、実利優先の山下に対し、羽根は厚みを築いて攻勢。終盤、黒の大石を取る
手が見合いとなり、山下の投了となった。

<羽根直樹天元の話>
中央の白の大石に眼がなくなり、ほとんどつぶれていました。最後はシノギが見えま
した。運が良かったです。

<山下敬吾棋聖の話>
 元が悪すぎましたが、白の大石の眼がなくなり、一瞬チャンスがありました。中央か
左上の白かどちらか取れていたかもしれません。

        ----西日本新聞より抜粋----

         ◇  ◇  ◇  ◇

今回の序盤は山下棋聖が実利志向でしたが中盤より激しい攻め合いとなり、羽根天元が
シノギ切った一戦でした。
この天元戦五番勝負、戦前の予想では過去の対戦成績から山下優勢が伝わりましたが、
羽根天元があと一勝と王手をかけました。

羽根天元は父上は羽根泰正九段、奥様は羽根しげ子初段(旧姓:松岡、松岡秀樹八段は
実兄)と囲碁一家です。

羽根天元、一流の棋士になるためには相当の苦難があったと思われますが、そんな苦労の
あとは感じられません。話し方も淡々として自己主張もあまりありません。
二世棋士として素直に成長した感じで、好感が持てます。

         ◇  ◇  ◇  ◇

今回の対局地は長崎市。私も二度ほど訪れたことがあります。
長崎は「異国情緒」を感じさせます。ヨーロッパや中華の影響があちこちに見られ、街も人々
も個性と活気があるように思われます。

その一方「原爆」という影の部分があり、この陰影が長崎の特徴かもしれません。


◎2003/12/02 「王座戦第3局/張本因坊が2勝目・奪取へあと1」

 王銘エン王座に張栩本因坊が挑戦している第51期囲碁王座戦五番勝負の第3局が
11/27、静岡県熱海市で行われ、白番の張本因坊が中押し勝ちした。張本因坊は対戦
成績を2勝1敗とし、初の「王座」獲得にあと1勝と迫った。
第4局は12月4日、宇都宮市の「宇都宮グランドホテル」で打たれる。

 序盤、王王座が足早に立ち回り、張本因坊がじっくりと地を確保する展開。第1局、第2
局と同様、「王王座の攻め、張本因坊のシノギ」という構図の中で、終盤、地合いで足り
ないとみた王王座が右辺の白の大石に猛攻をかけたが、張本因坊が落ち着いてしのぎ、
勝負を決めた。

<張栩本因坊の話>
(夕食休憩明け後)最後の最後で失敗したかと思い、勝利が決まるまで安心できません
でした。

<王銘エン王座の話>
 甘い手を打ったとは思わなかったのですが、なぜこれほど薄くなってしまったのか分か
りません。力がなかったのでしょうか。尋常ではない手を続けていたのですが、(張栩本
因坊は)少しも地を分けてくれませんでした。

             ----2003/11/28、日経NETより抜粋----

        ◇  ◇  ◇  ◇

張本因坊の2勝1敗、王王座は苦しくなりましたね。個人的には年長者の王座にがんばっ
てほしいところです。
少し前までは若手の台頭を期待していたのですが、次々と若手にタイトルが奪われていくと
「中堅、ベテランもがんばれ!」と応援したくなります。

王王座の碁は「ゾーンプレス」といわれる模様・攻めを主体のスタイル。
でも模様の碁は地に甘く難しいですね。

私自身も模様が好きなんですが、何十目も勝とうと広げるので簡単に荒らされ地合いで足り
ないというケースの繰返しです。
勝負は「半目」勝てばいいんですよね。分かっちゃいるけど・・・


☆「天声人碁」TOPへ