●○● 天声人碁 ●○●


2005年10月


◎2005/10/29 「名人戦第5局/小林九段が2勝目」


 神戸市北区有馬温泉で打たれていた第30期囲碁名人戦七番勝負の第5局(10月19日
〜20日)は、白番の挑戦者小林覚九段が張栩名人に1目半勝ちした。これで対戦成績を
1勝3敗から2勝3敗へと盛り返した。第6局は11月3、4の両日、静岡県伊東市で。

 小林挑戦者は封じ手以降、一気に攻勢に立ち右下の黒の5子を取りきって、
はっきり優勢となった。これに対し、張名人は全力で防戦して接戦に持ち込んだが、一歩
及ばなかった。激戦を制した小林挑戦者は「第6局まで行けると思っていなかったのでうれ
しい。名人と打つと勉強になり楽しい。無心で打ちたい」と意欲を見せた。

 解説の今村俊也九段は「小林挑戦者は白番の時、積極的に仕掛けることが多いが、
本局も自ら仕掛けて競り勝ちました。戦いまた戦いの碁で、たいへん迫力のある一局で
した」と話した。

<小林九段の話>
 右上でやり損ね、封じ手の段階ではよくなかった。白74と切ることができてチャンスが
来ました。

<張名人の話>
 なぜ黒69にオサエてしまったか自分でも分からない。実戦はツブレのような進行になっ
てしまった。

                   (朝日新聞より抜粋)


         ◇  ◇  ◇  ◇

小林覚九段の攻めが功を奏し、2勝目をあげました。七番勝負の勘が戻ってきたのでしょうか。
一方の張栩名人、小林九段の気迫に押され気味のようです。
これで名人の3勝2敗、勝負は混沌としてきました。

戦前の予想で石田芳夫九段が以下のような話をしていました。
「小林覚九段は20歳ほど若い後輩(名人)に挑戦するわけですが、先輩としての誇りや意地
があり、その辺のメンタルな部分がどのように影響するかもポイントになります」

私たちアマチュアの囲碁グループでも、「追い越していった若手」と「追い越されたベテラン」
の勝負は独特の雰囲気がありますよね。

         ◇  ◇  ◇  ◇

今回の対局地は神戸の有馬温泉。

(以下、asahi.com「囲碁」欄より抜粋)

太閤も愛した「関西の奥座敷」

 名人戦七番勝負第5局は、神戸市北区有馬町・有馬温泉の「御所坊」で行われている。
有馬温泉は日本三古泉(有馬・白浜・道後)と日本三名泉(有馬・草津・下呂)に名を連ね、
「関西の奥座敷」とよばれる名湯だ。

 豊臣秀吉は足繁く湯治に訪れ、千利休とともに盛大な茶会を催すなど、有馬温泉に繁栄を
もたらした。

秀吉は囲碁好きでも知られ、有馬町内の「瑞宝寺公園」では、秀吉が愛用していたといわれる
「石の碁盤」がある。湯浴みのあと、しばし碁を楽しんだのであろうか。



◎2005/10/27 「女流本因坊戦第3局/矢代五段が初タイトル獲得」


 囲碁の知念かおり女流本因坊(女流棋聖)に矢代久美子五段が挑戦していた第24期
女流本因坊戦5番勝負の第3局は10月20日、岩手県花巻市で行われ、白番の矢代が
中押し勝ちし、3連勝で初のタイトルを獲得した。

 矢代は第1局から逆転勝ちで連勝、第3局は優勢から一時は逆転されたが、最後は競り
合いを制して知念を抜き去った。
 知念は今シリーズは元気がなく、持ち味を生かし切れず2連覇は成らなかった。

<矢代久美子新女流本因坊の話>
 珍しくいい碁を打てたが、だんだんおかしくなって最後は負けかと思いました。
この内容でタイトルを取るのは申し訳ないです。

<知念かおり前女流本因坊の話>
 序盤から苦しく、中央を切ったあたりでは盛り返したと思ったが…。
負けて強くなるんだ、と前向きに頑張りたい。

                  (共同通信より抜粋)


         ◇  ◇  ◇  ◇

矢代五段がシリーズを通して乱戦を競り勝った印象です。持ち前の戦闘パワーがさらに
アップされたようですね。

一方の知念さん、3連敗での失冠はこたえると思います。でも「負けて強くなるんだ」の
コメントは私など「ザル碁党」にも希望を与えてくれます。

これで女流タイトル戦も群雄割拠の戦国時代となりました。

◆現時点のタイトルホルダー
 ・女流本因坊:矢代久美子
 ・女流名人:小山栄美・
 ・女流棋聖:知念かおり
 ・女流最強:新海洋子

         ◇  ◇  ◇  ◇

今回の対局地は岩手県の花巻温泉。
花巻温泉は若い頃、「早池峰山」に行く途中で立寄ったことがあります。

高級そうなホテルや旅館が立ち並んでおり、薄給の身には分不相応と早池峰山麓の
山小屋に泊まったことが思い出されます。

花巻温泉は「東北新幹線・新花巻駅」より車で20分、「東北自動車道花巻I.C」より5分、
「花巻空港」より車で10分と交通上の立地条件にめぐまれています。

しかし、最近は交通不便な秘境の温泉も人気があるようです。
私自身の好みでは「秘境」の方に魅力を感じますが、いずれにしてもお金と時間ないと・・・



◎2005/10/25 「井山四段、囲碁のタイトル戦最年少優勝」


 「阿含・桐山杯第12期全日本早碁オープン戦」の決勝が10月8日、京都市で打たれ、
プロ4年目の井山裕太四段(16)が小林覚九段(46)に黒番6目半勝ちして初優勝した。

 16歳4カ月での栄冠は、日本の囲碁タイトル戦の最年少優勝。趙治勲五段(当時)が
73年の新鋭トーナメントで記録した17歳0カ月を32年ぶりに塗り替えた。優勝によって、
段位は一気に三段跳びの七段となる。

 井山四段は6歳から日本棋院関西総本部の石井邦生九段に師事。小学2、3年で2年
連続の小学生名人となった。12歳でプロ入り。勝率は毎年7割を超え、現在プロ通算
109勝35敗。

                   (朝日新聞より抜粋)


         ◇  ◇  ◇  ◇

久しぶりの大型新人の登場です。
本棋戦では1回戦から張栩名人、王立誠九段、趙治勲十段らトップ棋士を次々と破る
快進撃だったようです。

決勝の小林覚九段とは1ヶ月ほど前にNHK杯で対戦していました。そのときは小林九段の
柔軟な戦略に敗れてしまいましたが、今回その雪辱を果たした結果となりました。

これから各種タイトル戦に登場してくると思われますが、スーパースターとして囲碁界を
盛り上げてほしいと思います。

         ◇  ◇  ◇  ◇

井山七段は小学2、3年で2年連続の小学生名人ということで、天才少年と騒がれました。
世の中、色々な分野で天才少年と呼ばれながらその後、埋没するケースも少なくありま
せん。

その意味では井山少年をここまで育てた、師匠の石井邦生九段の存在は大きかったと
思います。TVの解説では温厚な人柄の印象ですが、弟子の指導ではひとかたならぬ
苦労があったと思われます。



◎2005/10/19 「名人戦第4局/小林九段、カド番をしのいで1勝」

 名古屋市中区で打たれていた第30期囲碁名人戦七番勝負の第4局(10月11日〜12日)
は黒番の挑戦者・小林覚九段が張栩名人に3目半勝ちした。
 3連敗していた小林挑戦者はカド番をしのいで初の1勝をあげ、対戦成績は張名人の3勝1敗
となった。第5局は10月19、20の両日、神戸市で。

 形勢判断の難しい碁を、挑戦者が厚みを働かせてものにした。

 解説の小県真樹九段は「序盤の黒41カケは勇気のいる手。挑戦者の良さが出た一局です。
中盤まで白のペースかと思っていたが、左辺黒の厚みが効いた」と話した。

<張名人の話>
 序盤が良くなかった。いい勝負になったかと思う局面もあったが、難しかった。

<小林九段の話>
 思い切って打ったのが良かった。終盤下辺199オサエで勝ちが見えた。

                   (朝日新聞より抜粋)


         ◇  ◇  ◇  ◇

挑戦者の小林覚九段がようやく1勝を返しました。厚みを生かした戦略が功を奏した内容の
ようでした。中盤以降、張名人の追い上げに難しい局面もあったようですが、思い切りの良い
着手が名人を凌いだようです。

一方の張名人、中盤での返し技で勝負は混沌の様子でしたが、後半の着手は独特の冴えに
曇りがあったようです。

本局の内容からすると、5局目以降も熱戦が期待されます。個人的には小林挑戦者の反攻で
シリーズを盛り上げてもらいたいと思います。

         ◇  ◇  ◇  ◇

今回の対局地は愛知県名古屋市。今年は「愛・地球博」で盛り上がったようです。

タイトル戦は各地で開催でされ、食べ物もご当地の名物が出されると思います。
今回は「朝日新聞囲碁Web」欄で両対局者の昼食メニューを紹介していました。

1日目:「海老天ぷら入りきしめん」と「うなぎのまぶし小丼」。
2日目の:「味噌煮込みうどん」と「天むす」。

いずれも名古屋の味です。機会があったら食べてみたいものです。



◎2005/10/13 「女流本因坊戦第2局/挑戦者の矢代が2連勝」


 囲碁の知念かおり女流本因坊(女流棋聖)に矢代久美子五段が挑戦している第24期
女流本因坊戦5番勝負の第2局は、10月6日から福島市で行われ、矢代が黒番中押し
勝ちし、2連勝で初タイトルにあと1勝とした。
 第3局は20日、岩手県花巻市の佳松園で打たれる。

                  (共同通信より抜粋)


         ◇  ◇  ◇  ◇

矢代五段が二転三転と形勢が変化する碁を、最後に逆転して押し切った勝負のようでした。
これで2連勝とタイトル奪取まであと1勝。俄然、有利となりましたが相手は勝負強い知念
さん、簡単には勝たせてくれないでしょう。

一方の知念女流本因坊、勝つチャンスは何度もあったようですが途中で転んでしまいました。
2連敗と苦戦の展開になってきましたが、流れを変えて巻き返してほしいと思います。

一般的に女流の碁は戦闘的だといわれています。本局も男性棋士からため息が出そうな、
大胆な着手が各所でみられたようです。

「男は度胸、女は愛嬌」といわれていますが、囲碁の対局では当てはまらないと思います。

         ◇  ◇  ◇  ◇

今回の対局地は福島県飯坂温泉「摺上(スリカミ)亭大鳥」。「摺上」は阿武隈川支流の摺上川
から「大鳥」は大鳥城址からか由来してつけたと思われます。

この大鳥城は大河ドラマ「義経」に登場する「佐藤継信、忠信兄弟」の佐藤一族の居城で近く
の「医王寺」は佐藤兄弟の菩提寺になっているそうです。

悲運のヒーロー「義経」を支えた佐藤兄弟。その忠臣ぶりを讃えられていますが、「義経」は
それだけ人をひきつけるオーラみたいなものがあったのでしょうか。



◎2005/10/11 「新人王戦第2局/金秀俊七段が2連勝で新人王 」

 第30期新人王戦・決勝三番勝負の第2局が9月23日、東京日本棋院で行なわれ、白番
の金秀俊(キム・スジュン)七段が井山裕太四段に中押し勝ち、2連勝で新人王の称号を手中
にした。決勝戦で5連敗と不遇をかこっていた金だったが、ついに念願のタイトル獲得である。

 なお、最年少タイトル獲得記録のかかった井山裕太四段だったが、今回は達成ならなかった。

<金七段の話>
 まだ実感は湧いてきませんが、井山さんと打てて楽しかった。井山さんは不調だったような気
がします。本来はもっと強いはずですから。

<井山四段の話>
 (最年少タイトル獲得の)記録は意識していませんでしたが、まだ実力不足ということ。気持ち
を切り替えて、阿含・桐山杯を頑張ります。

                  (週刊碁より抜粋)


         ◇  ◇  ◇  ◇

力戦派の金七段が白模様を大きくまとめて勝ちきったようです。力強さは師匠(趙治勲十段)
ゆずりですが、師匠は「シノギの力強さ」を、金七段は「戦いの力強さ」を感じます。

一方の井山裕太四段、一歩及ばずということでしょうか。囲碁ファンとしてはもっと若々しい
碁を見せてほしかったような気がします。

         ◇  ◇  ◇  ◇

新人王戦は7大タイトルからは格下となりますが、歴代の優勝者は小林光一、依田紀基、
高尾紳路、山下敬吾、張栩などそうそうたる棋士が名を連ねており、一流棋士への登竜門
といった位置づけでしょうか。

今回の立会人は宮沢吾郎九段、1局目は関西の後藤俊午九段と名人戦などの立会人に比べ、
知名度は低くなります。

宮沢九段は第5期に新人王になっていますが、その後はタイトル戦から遠ざかっています。
宮沢九段の棋風といえば序盤から終盤まで「闘いに次ぐ闘い」の碁。是非、ひのき舞台で
見せてほしいものです。



◎2005/10/06 「名人戦第3局/張名人が3連勝、防衛へあと1 」

 甲府市で打たれていた第30期囲碁名人戦七番勝負の第3局(9月28日〜29日)は黒番
の張栩名人が挑戦者の小林覚九段に中押し勝ちし、3連勝で初防衛にあと1勝とした。
第4局は10月11、12の両日、名古屋市で。

 地合いで先行して逃げ切る、名人らしい打ち回しがさえた。ヨセ勝負となったが、白地を的
確に制限して挑戦者の追い込みを許さなかった。

<張名人の話>
 一手一手が難しい碁で、序盤は少し悪かったかもしれない。大ヨセの段階で良くなったと
思います。

<小林九段の話> 白56あたりで悪くした。どこへ打てばいいか分からなかった。第4局は
とにかく一生懸命打つだけです。

                   (朝日新聞より抜粋)


         ◇  ◇  ◇  ◇

張栩名人、黒番の打ちまわしは絶妙ですね。白の厚みを巧みに消して優勢をきずく、的確な
形勢判断がものをいうようです。

挑戦者の小林覚九段、元気がないですね。趙治勲十段と棋聖戦を戦った頃の迫力が伝わっ
てきません。何かブレているような気がします。

張栩名人の充実ぶりが光りますが、小林挑戦者の3連敗は納得がいきません。次局以降、
気持ちを切り替えて熱い戦いを見せてほしいものです。

         ◇  ◇  ◇  ◇

今回の対局地は山梨県甲府市。武田信玄と甲州ぶどうが有名です。

山梨県も市町村合併により、いままで聞いたことのない名称が増えています。
「南アルプス市」、「甲斐市」、「笛吹市」、「「北杜市(ほくとし)」など。また今後の合併計画では
「甲州市」、「中央市」などが予定されているようです。

それにしても「甲府市」、「甲斐市」、「甲州市」と似たような名称で他県の人はとまどってしまい
ますね。


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