●○● 天声人碁 ●○●


2005年11月


◎2005/11/26 「王座戦第2局/張王座が2連勝」

 張栩王座に山下敬吾天元が挑戦している第53期王座戦の5番勝負第2局が11月21日、
神奈川県秦野市で行われ、白番の張王座が中押し勝ちし、2連勝で王座3連覇に王手をか
けた。第3局は12月1日、奈良市で行われる。

<武宮正樹九段の目>
 立会人をしましたが、山下天元に対局続きの疲れが見えた気がします。少し粘りがなかった
のでは…。一方の張王座はきょうは気持ちよく勝てたのではないでしょうか。

<大矢浩一九段の目>
 序盤、山下天元の黒乗りの方が多かったと思います。張王座の白は、少し「借金」が多い
状況でしたし…。山下天元自身、「黒の方がいい」と思っていたのですが、どうもそうでもな
かったようです。途中からは張王座にうまく立ち回られてしまった。張王座の手どころはピカ
イチだと思います。

<張栩王座の話>
  ずっと難しいと思っていました。途中でシノギがはっきりして、良くなったと感じました。
(防衛がかかった第3局の抱負を聞かれ)次も一生懸命打ちたいと思います。

<山下敬吾天元の話>
 途中までは悪くはないと思っていたのですが、その後はもうメチャクチャでした。攻めがうまく
行きませんでした。(第3局の抱負を聞かれ)もう開き直るしかないと思います。

                 (日経e-碁サロンより抜粋)

         ◇  ◇  ◇  ◇

張栩王座の充実振りが光った一局のようです。名人戦を防衛し、王座戦も2連勝と快進撃です。

一方の山下天元、苦戦しています。天元戦でも河野七段に1勝2敗と窮地に立たされています。

◇王座戦(五番勝負、張栩王座 VS 山下敬吾天元)
 ・10/28、第一局:張栩王座 ○ 山下天元 ●
 ・11/21、第二局:張栩王座 ○ 山下天元 ●

◇天元戦(五番勝負、山下敬吾天元 VS 河野臨七段)
 ・11/07、第一局:山下天元 ○ 河野七段 ●
 ・11/17、第二局:山下天元 ● 河野七段 ○
 ・11/24、第三局:山下天元 ● 河野七段 ○

         ◇  ◇  ◇  ◇

今回の対局地は神奈川県秦野市の「陣屋」。囲碁や将棋の名勝負が何度も行なわれています。

「陣屋」HPより「陣屋」の由来
鎌倉の世に盛名を馳せた和田義盛公の別邸跡を敷地とした陣屋。頼朝公の四天王のひとりで
初代待所別当であった義盛公が勇ましき武士を育て、「いざ鎌倉」に備えた所です。

本局の昼食メニューは張王座が「ケンチンうどん」、山下天元が「ケンチンそば」を注文したそう
です。
ところでこの「けんちん汁」の語源は鎌倉・建長寺の「建長寺汁」からきているそうです。
「建長寺」というのを中国語読みすると、「ケンチャンスー」になるそうで、これがなまって
「けんちん汁」になったとか。

陣屋〜鎌倉〜けんちん汁、意外なつながりがあるものです。



◎2005/11/23 「天元戦第2局/河野、逆転でタイ」

山下敬吾天元(27)に河野臨七段(24)が挑戦している第31期天元戦5番勝負の 第2局
が11月17日、旭川市で打たれ、白番の河野が五目半勝ちし、対戦成績を一勝一敗のタイ
とした。
第3局は24日、大分県日田市で行われる。

 序盤、山下が右辺に大きな厚みを築き、主導権を握った。その後河野が、左上の黒を攻
めながら左辺に地を作って巻き返した。

 さらに河野は右辺の黒地に侵入。右辺の黒地を荒らして一気に形勢を有利にすると、 その
まま逃げ切った。


                   (北海道新聞より抜粋)

         ◇  ◇  ◇  ◇

河野七段がタイトル戦(7大棋戦)で初勝利。本人もホッとしたことでしょう。

一方の山下天元、中盤までは持ち前の厚みで優勢のようでしたが失速したようです。
山下天元は本棋戦と並行して王座戦で張王座と対戦中。また棋聖戦でもプレーオフで結城
九段を破り、来年1月から羽根棋聖との七番勝負が決まっています。

         ◇  ◇  ◇  ◇

今回の対局地は旭川市。山下天元の出身地であり、河野七段の師匠である小林光一九段
の出身地でもあります。
山下天元としては地元の囲碁ファンの期待に応えたいところだったでしょうが、残念でした。

TVで旭川市/旭山動物園のニュースを見ることがあります。最近は色々なテーマパークが
増え、昔ながらの動物園はどこも苦戦しているようですが、ここ旭山動物園は盛況のようです。
入場者が今までにない驚きや感動を共感できるようなサービスを徹底的に突き詰めて、
提供していく姿勢が盛況につながっていると思います。

囲碁界の発展も同様なことがいえると思います。



◎2005/11/18 「名人戦第7局/張名人が初防衛決める」

 静岡県伊豆市で打たれていた第30期囲碁名人戦七番勝負の第7局(11月9日〜
10日)は張栩(ちょう・う)名人(25)が挑戦者の小林覚九段(46)に白番中押し勝ち。
通算4勝3敗で名人初防衛を果たした。

 名人初挑戦だった小林九段は3連敗した後、手厚く打って攻める持ち味を発揮して
3連勝。驚異的な巻き返しをみせたが、及ばなかった。

 解説の片岡聡九段は「両者、力を尽くした七番勝負でした。最終局は名人は接近戦で
読みの正確さが光りました」と話した。

<張名人の話>
 初防衛は運がよかった。後半3連敗し、負けの流れになっていた。最終局は思い切って

頑張ることだけ考えました。

<小林九段の話>
 本当なら4連敗の内容でした。とにかく7局打つことができて、いい勉強になりました。

                   (朝日新聞より抜粋)


         ◇  ◇  ◇  ◇

張栩名人、3連勝から3連敗で流れは小林九段かと思いましたが、最後は張名人の勝負
強さが防衛につながったようです。
来春にはパパになるそうですが、これからも鋭い「キレ」のある碁で日本の碁界を盛り立
ててもらいたいと思います。

挑戦者の小林九段、あと一歩のところで大魚を逸しました。3連敗の時点では名人戦も
これまでかと思いましたが、よくここまで追い上げたものだと感心します。
局後の検討でも笑顔を欠かさず、さわやかな姿が印象的でした。

九月初旬から始まった名人戦、2カ月にわたる熱戦も張栩名人の防衛で幕が降りました。

伝統あるこの七番勝負、十分楽しませていただきました。

         ◇  ◇  ◇  ◇

今回の対局地は静岡県伊豆市の修善寺温泉「鬼の栖(すみか)」。

修善寺は今年のNHK大河ドラマ「義経」と関わる源氏興亡の哀史の舞台となっているそう
です。
北条氏の謀略に倒れた源範頼(頼朝の弟、義経の兄)、頼家(頼朝の子、二代鎌倉幕府
将軍)の墓などがあるとのこと。
鎌倉幕府をつくり、武士の時代を切り開いた源頼朝ですが、源氏の権力存続という意味で
は北条氏に実権をさらわれた感じです。

名人戦の対局地も平塚、福岡、甲府、名古屋、神戸、伊東市、伊豆市と七つの地域を巡っ
てきました。
対局者、主催者、囲碁ファン他、関係者の皆様、お疲れさまでした。



◎2005/11/15 「天元戦第1局/山下敬吾天元が先勝」

 山下敬吾天元(27)に河野臨七段(24)が挑戦している第31期天元戦5番勝負の
第1局は11月7日、金沢市で打たれ、白番の山下が6目半勝ち、初防衛に向けて好
スタートを切った。第2局は17日に北海道旭川市で行われる。

 タイトル戦初登場、河野の黒番で始まった第1局。序盤は左上隅の折衝から戦いが
始まり、山下が上辺から黒の大石の封じ込めをはかりながら、中央に模様をつくった。

 一方、河野は中央の白模様を挟撃し、形勢を盛り返した。山下は左辺で再び黒の大石
を攻めたが、河野はしのぎ切り、勝敗の行方は右辺の攻防に持ち込まれた。

 形勢不明のまま終盤になだれ込み、最終盤まで難解なヨセが続いたが、山下が粘る
河野を振り切った。


                   (中日新聞より抜粋)

         ◇  ◇  ◇  ◇

山下天元にとって後輩の挑戦者(河野七段)を迎えるのは初めてだそうです。先輩として
意地をみせたいところでしょう。本局は山下天元が得意の乱打戦を制した一局のようでし
た。

一方、タイトル戦初登場の河野臨七段は堅実な碁風で寄せ合いに強いタイプのようです。
師匠は木谷門下の小林光一九段。タイトル戦、第一局となった本局は山下天元の乱打戦
に引きずり込まれた格好で、最後まで粘ったものの寄り切られた一局でした。

山下、張栩、羽根、高尾の四天王に続き、河野七段の台頭。新風を吹き込んでもらいたい
ものです。

         ◇  ◇  ◇  ◇

今回の対局地は金沢市。加賀百万石の城下町として有名です。
加賀藩といえば前田利家。「織田・豊臣時代」を支えた勇猛な武将であると同時に、忠実な
ブレーンとしてもその存在感を示しました。

最近のTVニュースで兼六園の松に雪吊りをしている光景を中継していましたが、北陸では
もう冬の準備なんですね。

十年ほど前、夏の連休に兼六園を訪れたことがあります。ずいぶん広い公園で一周するの
に疲れました。
また、周辺のみやげ物屋や飲食店も賑わっており、活気があったことが思い出されます。



◎2005/11/09 「名人戦第6局/小林九段が半目勝ち最終局へ」

 静岡県伊東市で打たれていた第30期囲碁名人戦七番勝負の第6局(11月3日〜4日)
は挑戦者の小林覚九段(46)が張栩(ちょう・う)名人(25)に黒番半目勝ち。3連敗後の
3連勝で、名人位の行方は11月9、10の両日、同県伊豆市での第7局に持ち込まれた。

 挑戦者が一度は優位に立ったものの、名人が猛追して形勢は混迷。半目の揺れ動くき
わどい勝負だった。

名人戦が3連敗3連勝で最終局を迎えるのは29期までで84年に1回あっただけ。
棋聖、本因坊を含めた三大棋戦でも過去6回しかない。

 解説の溝上知親八段は「主導権が行ったり来たりする、まれに見る乱戦。最後は運も
味方して小林九段が逃げ切った印象です」と話した。

<小林九段の話>
 (本当ならば)負けにしてました。勝てたと思ったのは、最後の一手を打った後でした。

<張名人の話>
 ずっと難しい碁で後悔の手も多かった。最後の最後はチャンスがあったかもしれなかっ
たが。

                   (朝日新聞より抜粋)


         ◇  ◇  ◇  ◇
本局は小林覚九段が地で先行、張名人が厚みで追い込むという流れで今までとは逆の
進行でした。
終盤の形勢は半目勝負でどちらに転ぶか分からない状況でしたが、小林九段が粘りで
勝利を引き寄せた感じでした。

小林九段はどちらかといえば勝負に淡白な印象でしたが、本局は粘りが功を奏した一局の
ようです。

一方の張名人、敗れたとはいえ「ヨミ」の冴えは当代随一、最終局でも簡単には土俵を割
らないでしょう。

名人戦もいよいよ第七局、小林挑戦者は3連敗のあと3連勝と上げ潮ムードで最終局に
臨みますが結果は「神のみぞ知る」というところでしょうか。

         ◇  ◇  ◇  ◇

本局の立会人は王立誠九段。20代の頃は小林覚挑戦者、片岡九段、山城九段で若手
四天王と呼ばれていた時期もありました。

同世代棋士でもあり、王九段としては小林挑戦者を応援したいところでしょうが、立会人と
しては当然中立ですね。

         ◇  ◇  ◇  ◇

今回の対局地は静岡県伊東市の「わかつき別邸」。昨年の名人戦第六局もここで行なわれ、
張(現)名人が依田(前)名人から4勝2敗でタイトルを奪取しました。

  ◇  ◇

(以下、asahi.com「囲碁」欄より抜粋)

「対局室には論語の掛け軸 」

 対局室は「わかつき別邸」の本館2階にある和室。張名人が座る上座の背後の床の間には、
「本立而道生(もとたちて、みちしょうず)」と書かれた掛け軸がかけられている。

 出典は「論語」からで、「人は根本を把握するようにつとめるべきである」との意。

 この部屋では、張名人が誕生した昨年の第29期囲碁名人戦七番勝負第6局をはじめ、
囲碁や将棋の名勝負がこれまでにも行われてきた。基本重視を説いたこの掛け軸も、勝負の
行方を見守っている。



◎2005/11/07 「王座戦第1局/張王座が先勝」

 10月28日、東京都目黒区で打たれていた第53期囲碁王座戦五番勝負第1局は、
先番の張栩王座が挑戦者の山下敬吾天元に中押し勝ちした。第2局は11月21日、
神奈川県秦野市で行われる。

 立会人の大竹英雄名誉碁聖や高尾紳路本因坊ら控室の棋士の形勢判断が二転三転
する難解な攻防だったが、最後、時間を多く残していた張が正確な読みで勝ちきった。

<張栩王座の話>
 難しい碁でした。最後まで勝てたかどうかわかりませんでした。

<山下敬吾天元の話>
 序盤が全然駄目でした。(張王座の黒77以降)途中でチャンスが回ってきたかとも思い
ましたが…。時間がなくなったのは仕方がないです。

                 (日経e-碁サロンより抜粋)


         ◇  ◇  ◇  ◇

注目の「山張決戦」、張栩王座が序盤のリードを維持して勝利した模様です。
張栩さんの黒番勝率は抜群で「先行逃げ切り」タイプですね。

一方の山下天元、一時は有望の局面もあったようですが余分なノゾキが疑問だった
ようです。「戦いで追い込み型/山下天元」に「先行逃げ切り型/張栩王座」が勝った
図式でした。

         ◇  ◇  ◇  ◇

この時期、タイトル戦は大忙しの季節です。

◇新人王戦(三番勝負、金秀俊七段 VS 井山裕太四段)
 ・9/23、金秀俊七段が2連勝で初タイトル

◇全日本早碁オープン戦(一番勝負小林覚九段 VS 井山裕太四段)
 ・10/8、井山裕太四段が最年少優勝

◇女流本因坊戦(五番勝負、知念かおり女流本因坊 VS 矢代久美子五段)
 ・10/20、矢代久美子五段が3連勝で初タイトル

◇王座戦(五番勝負、張栩王座 VS 山下敬吾天元)
 ・10/28、第一局は張栩王座が先勝

◇名人戦(七番勝負、張栩名人 VS 小林覚九段)
 ・11/4、第六局3勝3敗で第七局(11/9、10)へ

◇天元戦(五番勝負、山下敬吾天元 VS 河野臨七段)
 ・11/7、第一局は山下天元が先勝

現在、タイトル戦で多忙な棋士は張栩名人・王座、山下天元、小林覚九段、
井山七段・・・。
「多忙=賞金アップ」はどこの世界も同じようですが、プラスα「楽しい、面白い」
が必要でしょう。


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