●○● 天声人碁 ●○●


2005年12月

◎2005/12/31 「怒涛の譜(第1局)木谷師との唯一の局」

※加藤正夫精局集「怒涛の譜」より譜の内容、コメントを記載していきます。

■内弟子指導碁/S34(1959)/08/12
■木谷實九段 五子 加藤正夫(12歳)
■結果:「白中押し」木谷師の石を取りに大石を追いかけるが、包囲網を破られ黒石が頓死。
■「囲碁クラブ誌」の「木谷道場・内弟子指導碁シリーズ」の一局。入門四ヶ月目のこの指導
碁が師との生涯唯一の局となった。
■後年の自評
・黒石のピンチの場面で:「しのぎを用意していたのは、われながら上出来。当時から手どころ
 の読みには自信があった」
・白石を狙っている場面:「大場を占め、バランスをとって勝とうという小ざかしい知恵は持ち合
 わせていなかった」
■コメント
・自陣の味の悪さなどものともせず、攻め一直線の一局。

   ◇  ◇  ◇

2005年も今日が最後、今年の年頭では「棋譜を並べて棋力アップ」を掲げていましたが、空手
形になってしまいました。
ここ何年かは惰性の年月が過ぎていくようでイマイチの心境ですが、「災いもなく、よしとしたも
のか」という思いです。
しかし、加藤先生が最後まで燃やしていた信念を思うと、小生も「まだこれから」という気持ちに
なります。



◎2005/12/30 「かあちゃんは好敵手・藤沢秀行」

今日、NHKのアンコール放送で「かあちゃんは好敵手・天才棋士とモト」を再放送してい
ました。
この番組はATP(全日本テレビ番組製作社連盟)賞のグランプリを受賞したそうで、なる
ほど良質な番組と共感を覚えました。

藤沢秀行、「飲む・打つ・買う・借金」などその破天荒な生き様は「最後の無頼派」と呼ばれ
ていたそうです。
湯河原での秀行合宿の模様を映していました。結城聡九段や坂井秀至七段を相手に厳しい
叱責がと飛び交っており、その中で「碁を強くするには人間性を高めなくちゃダメだ」といって
いましたが、「無頼派の人間性は高いのかなあ・・・?」と頭をひねりました。

それにしてもモト夫人の「猛妻」ぶりは存在感十分で爽快さを感じます。
人生の晩年はかくありたいと思う次第でした。



◎2005/12/28 「【怒涛の譜-加藤正夫精局集-】購入」

もう何年も前から「加藤正夫名誉王座」ファンの私は、ちょっと高額な本なのでためらい
ながらも、そっと購入申込書を郵送しました。
しばらくして本書が宅配便で届き、女房殿は怪訝そうな顔で受け取っていました・・・。

とりあえず、特別付録のDVD(今年1月にNHKで放映された追悼番組がメイン)を見たとこ
ろで、中身はこれからゆっくり読む(研究する)つもりです。

掲載されている棋譜が200局。全部並べるには相当な時間がかかりそうですが、気合で
取り組んでみたいと思います。
投資は回収しなければ・・・



◎2005/12/26 「小林覚九段に囲碁ジャーナリストクラブ賞」

 第23回日本囲碁ジャーナリストクラブ賞に小林覚九段(46)が選ばれ、都内で表彰があった。
秋の名人戦で張栩名人をあわやのところまで追いつめた活躍が評価された。本人は「阿含・
桐山杯の決勝で負け、史上最年少16歳の井山裕太君を優勝させたおかげかな」。

                      (12/23、朝日新聞「棋信」より)

      ◇  ◇  ◇  ◇

今年の小林覚九段は話題が多かったですね。名人戦では3連敗後の3連勝。最終局は及ば
なかったものの中年囲碁ファンを喜ばせました。
小林覚九段は小林千寿五段、小林健二七段、小林孝之準棋士の四姉弟の末弟となります。
長野県から東京に移り、子供たちを支えた両親の苦労は大変だったと察せられます。

囲碁に限らず才能面では、兄弟の中でも下の方が伸びる傾向にあるような気がしますが・・・



◎2005/12/25 「天元戦第5局/河野、初タイトル(12/20)」

  第31期天元戦五番勝負の第五局は12/20、徳島市で打たれ、白番の挑戦者・河野臨
七段(24)が山下敬吾天元(27)に四目半勝ちし、3勝2敗で初の天元位を獲得した。
 若手のフレッシュ対決で注目された今シリーズは、河野七段が第2、3局を制して先行。
第4局は落としたものの、大一番に快勝して、タイトル戦初登場で初のビッグタイトルを手
にした。
 序盤は意欲的な応酬から左下隅で新型が出現。白の実利に黒が外勢で対抗する分かれ
になった。
河野黒模様に踏み込み、「白優勢」の声が控室で挙がった。河野は正確に寄せて逃げ切った。

<河野臨新天元>の話
 左下は打ったことのない形で難しかったのですが、黒二子を取って少しよくなったかと。
初タイトル奪取についてはまだ実感がありません。

<山下敬吾前天元の話>
 黒右下の肩ツキで、戦えるかと錯覚していました。五番勝負全体はミスが多く、この結果は
仕方ありません。
            (徳島新聞より抜粋)

         ◇  ◇  ◇  ◇

河野新天元、豪腕の山下九段を着実な打ち回しで勝ち切りました。24歳での天元位初タイトル
は師匠の小林光一九段も同じだったそうです。
師匠は弟子の碁を「派手な碁じゃありませんけど、芯の通っている碁」と評していました。

一方、無冠となった山下九段、本シリーズでは精彩を欠いたようですが、来年早々から羽根棋聖
との七番勝負が始まります。山下九段らしい碁を見せてほしいものです。

         ◇  ◇  ◇  ◇

 今回の対局地、徳島市は吉野川河口に位置し人口は26万人。「阿波おどり、人形浄瑠璃、
藍染・阿波しじら、すだち」などが有名のようです。
 歴史的には天正年間に蜂須賀家政が阿波に入国し、城郭を築いたのが始まりで、蜂須賀14代
の治世のもと、阿波の政治・経済の中心として栄えたとのことです。

2年ほど前、徳島県で「ねんりんピック」が開催され、囲碁団体の役員として視察に行きました。
神戸淡路鳴門自動車道から見る「鳴門のうずしお」は迫力がありましたね。



◎2005/12/24 「加藤正夫九段の棋譜解説」

今日はプロ棋士が主宰する囲碁教室にいってきました。
講座内容の「加藤正夫九段の棋譜解説」に心が動かされました。
講師は加藤門下生「S七段」で解説の棋譜は1986年の第11期名人戦第4局。

当時の小林光一名人から4-0でタイトルを奪取した一局で、白(加藤)が終盤右下で放った
妙手が話題となりました。

解説では弟子のS七段が加藤九段の色々なエピソードを交えて説明され、その誠実な人と
なりに触れ胸が熱くなる思いでした。

加藤九段が亡くなってもう一年になるんですね。加藤九段の終盤は囲碁界発展のために全力
を注いでいました。
加藤ファンの私も少しでもその意志が継げればと思っています。



◎2005/12/22 「ALWAYS・三丁目の夕日」

先週の日曜日(12/18)に映画「ALWAYS・三丁目の夕日」を観てきました。
舞台は昭和33年頃の下町が設定で、建設途中の東京タワーが随所に出てきます。
笑いと涙の人情劇で「男はつらいよ(フーテンの寅さん)」と共通するものがあります。

私自身はこの頃、小学生の高学年でしょうか。テレビが一般家庭に少しづつ普及し始めた
頃で、私も近所の家に見に行ったものでした。

そういえばこの作品に出演していた吉岡秀隆さん(茶川竜之介役)は、離婚(相手は内田
有紀さん)したと、昨日のニュースでいっていました。忙しすぎたのでしょうか。
吉岡秀隆さんといえば「男はつらいよ」で、寅さんの妹・さくらさんの子供役で子役から青年
期までを演じていました。TVや映画でも真面目で純朴な役が多いですね。

  ◇ ◇ 昭和33年の囲碁界 ◇ ◇

この頃は棋戦もすくなく、プロ棋士の生活も大変だったと思われます。
■プロ棋戦
・第13期本因坊戦 高川秀格本因坊が4勝2敗で杉内雅雄八段を破り7連覇
・第6期王座戦 藤沢朋斎九段が2連勝で、半田道玄八段を破り優勝
・第5期NHK杯 坂田栄男九段が木谷實九段を破り優勝
■アマ棋戦
・第4期アマ本因坊戦優勝 菊池康郎(神奈川)
・第2期全日本学生本因坊戦 原田実(都立大)



◎2005/12/21 「天元戦第4局/山下勝ちタイ、最終局に」

 神戸市中央区で12月15日朝始まった囲碁の第31期天元戦五番勝負の第4局は、
黒番の山下敬吾天元(27)が挑戦者の河野臨七段(24)に中押し勝ちし、対戦成績を
2勝2敗のタイに戻した。
タイトルの行方は12月20日、徳島市で行われる最終第5局に持ち越された。

 山下得意のねじり合いの展開となった第四局。山下は左辺で実利を得ながら白石を
攻めたのに続き、強手を連発、主導権を握った。

 河野も勝負手を放ったが、山下は緩まず白石の弱点を厳しく攻撃。その後も白の大
石に圧力をかけながら冷静に寄せ、河野を投了に追い込んだ。

<山下敬吾天元の話>
 左辺の白を取ったところで、優勢かなと思いました。

<河野臨七段の話>
 左辺がうまくいきませんでした。切られた実戦の捨て方では、はっきり悪いです。

                   (神戸新聞より抜粋)


         ◇  ◇  ◇  ◇

山下天元の強攻が河野七段の技を打ち砕いた感じで、骨太の山下天元らしさが出た
一局といえるでしょう。

一方の河野七段、師匠の小林光一九段が「いつもの手堅い、着実な打ちまわしでは
ない」と解説していましたが、タイトルを目前にして着手に伸びがなかったようです。

注目の第5局は昨日、徳島市で行なわれ河野七段が初タイトルを取ったようですが
コメントは次回の記事で。

         ◇  ◇  ◇  ◇

今回の対局地は神戸市。この季節、「光の回廊、神戸ルミナリエ」が有名です。
先日、娘もツアーで見学してきたようです。

「神戸ルミナリエ」とは(神戸市HPより抜粋)

「神戸ルミナリエ」は、阪神・淡路大震災犠牲者の鎮魂の意を込めると共に、都市の
復興・再生への夢と希望を託し、大震災の起こった1995年12月に初めて開催され、
震災で打ちひしがれた神戸の街と市民に大きな感動と勇気、希望を与えました。
閉幕直後から、市民や各界から継続開催を求める強い声が寄せられ、都市と市民の
希望を象徴する神戸の冬の風物詩としての定着を目指すことになりました。

         ◇  ◇  ◇  ◇

最近、色々な市町村で電飾を使ったイルミネーションが氾濫しています。
神戸市のように目的が明確なものはともかく、ただきれいだからからと飾り立てると
いうのはどうかと思います。
省エネの面でも問題でしょうし、個人的には日本的ではないような気がします。



◎2005/12/15 「小林泉美六段が女流最多タイの10タイトル獲得」

 囲碁の小林泉美六段は12月8日、東京都内の日本棋院で行われた第7期東京精密
杯女流プロ最強戦決勝戦で小西和子八段に勝ち、通算タイトル獲得数を10に伸ばし、
杉内寿子八段、母の故小林礼子七段と並び、女流棋士史上最多タイ記録となった。

 また、女流4棋戦(女流本因坊、女流名人、女流棋聖、女流最強)すべてで優勝した
初の棋士に輝いた。小林六段は「結果はうれしい。最近はタイトルから遠ざかっていた
ので、取ることができてよかった」と話した。

                           [2005年12月8日/共同]


         ◇  ◇  ◇  ◇

小林泉美六段、しばらくタイトルがありませんでしたが、すぐに奪取するあたりはさすが
です。夫君の張栩名人・王座も二冠を防衛し、今年もよい一年だったことでしょう。
来春にはママさんになるそうですが、女流棋士は大変ですね。

一方の小西和子八段、残念でした。関西棋院の女流としては吉田美香八段の女流本
因坊4期が光りますが、それ以外では目立った記録がありません。
男性では結城聡九段、坂井秀至七段など、頑張っていますが女流も活躍してほしいも
のです。

         ◇  ◇  ◇  ◇

少し前、地方紙の囲碁欄で関西出身のアマの碁が載っていましたが、その中で関西人
の碁は関東人とは打ち方が違うというコメントがありました。

関東の人は棋書やプロ棋士などを参考にセオリー通りの打ち方に対し、関西の方は
「自分の好きなように打つ」というような内容でした。
囲碁に限らず、そのような傾向は確かにあるようで「なるほど」と思った次第です。

現在、NHKの囲碁講座は「大森泰志の自分流のススメ」ですが、関西の方が自分流が
進んでいるのかもしれませんね。



◎2005/12/07 「王座戦第3局/張王座、3連勝で3連覇」

 12月1日、奈良市で行われた第53期囲碁王座戦の五番勝負第3局は、黒番の
張栩王座が山下敬吾天元に九目半勝ちした。負けなしの3連勝で3連覇を達成、
名人との二冠を堅持した。

<今村俊也九段(解説)の目>
 中盤で山下天元が一気に盛り返し、張王座の攻めをしのいで難しい局面に持ち
込んだ頑張りが非常に印象的でした。終盤の秒読みの中で手が乱れてしまったの
は残念だったと思います。

 山下天元は連戦の疲れがたまっていたのかもしれませんが、大きな勝負が重な
るのは勝つ者の宿命
といえます。天元の防衛戦のほか、来年には棋聖戦も控えているわけですから、
ぜひ奮起してほしいと思います。

 一方、張王座はこれで王座3連覇を果たしました。加藤正夫名誉王座の9連覇も
夢ではありません。来年の五番勝負も期待したいと思います。

 張王座と山下天元の同世代対決はまだまだ始まったばかり。張王座が頭一つリー
ドしたといえるかもしれませんが、この2人はこれからもずっとタイトル戦で顔を合わせ
ていくはずです。囲碁ファンにとっては今後が楽しみな好カードとなっていくのではない
でしょうか。

<張栩王座の話>
 (今日の碁は)少し打ちやすい局面が多かったと思いますが、最後は結構難しくなり
ました。勝ちを確信したのは、最後の最後でした。

(シリーズを振り返って)こんなにうまく運ぶとは思っていませんでした。下手なりにうまく
打てたと思います。自分の力をほとんど出し切ることができました。運が良かった。

<山下敬吾天元の話>
 (今日の碁については)ずっと難しかった。(シリーズを振り返ると)全然内容がひど
かった。過密日程は関係ありません。たくさん打てることはいいことなので、日程の影
響はないです。

                 (日経e-碁サロンより抜粋)

         ◇  ◇  ◇  ◇

張栩王座、名人戦ではもつれての防衛でしたが本シリーズは3連勝と好調の波に乗っ
たようです。

一方の山下天元、元気がないですね。「山張決戦」も張王座が一歩リードの格好です。
進行中の天元戦(対 河野臨七段)、来年初頭からの棋聖戦(対 羽根棋聖)ではぜひ
奮起してもらいたいものです。

         ◇  ◇  ◇  ◇

本局は国内タイトル戦ではほとんど見られない「椅子対局」でした。
主催の日経新聞は世界王座戦も行なっており、この流れでの判断かもしれません。

国際化の面から考えれば今後、椅子対局が多くなると思われますが、三大棋戦(棋聖、
名人、本因坊)くらいは遠慮してほしいと思います。

個人的な見解ですが「囲碁は日本の伝統的な文化」の一つだと思っています。
歴史を刻んだ「和の心」は大切にしてもらいたいものです。



◎2005/12/02 「天元戦第3局/河野、勝ち2勝1敗に」

 山下敬吾天元(27)に河野臨七段(24)が挑戦している天元戦五番勝負の第三局
が11月24日、大分県日田市で行われ、先番の河野七段が中押し勝ち、対戦成績を
二勝一敗として、タイトル奪取に後一勝と迫った。第四局は十二月十五日、神戸市で
打たれる。

 序盤は河野が左辺に、山下が下辺にそれぞれ模様を築いた。山下は左上隅の河野
陣を荒らして生き、局面をリードした。しかし、河野は山下の一瞬のスキを突いて中央
の白を攻め、白の大石を取りきった。

<山下敬吾天元の談話>
 左辺を荒らしたところでは悪くないかなと思いましたが、中央で錯覚していました。
大石は生きていると思っていましたが、死んでいました。

<河野臨七段の談話>
 左辺の白を取りに行ったときに読み違いがありました。しかし、まだ一仕事できるか
と―。白中央の大石に眼がなくなり、勝ちになりました。

                   (西日本新聞より抜粋)


         ◇  ◇  ◇  ◇

バランス重視の河野七段が力戦派・山下天元の大石を取って2勝目、タイトル獲得まで
あと1勝となりました。
河野七段は外見からも見ても冷静沈着、おとなしそうな感じです。師匠の小林光一九段
は「もう少し爆発力があれば・・・」と評していましたが、本シリーズで爆発するか楽しみで
す。

一方の山下天元、急所で錯覚しカド番に追い込まれました。タイトル戦が続き疲れもある
のでしょうが、ここは一番ふんばってほしいところです。

         ◇  ◇  ◇  ◇

今回の対局地は大分県日田市。今年3月に日田市と日田郡上津江村、中津江村、前津
江村、大山町、天瀬町が合併して、新日田市が誕生したそうです。

この中に中津江村がありますが、サッカーのワールドカップ2002でカメルーンのキャンプ
地になって一躍有名になりました。
なかなか選手が到着せず、TVや新聞などで話題になりましたが、過疎の村が国際交流
の拠点になるってことはすばらしいと思います。

囲碁の世界もサッカー同様、国際交流の一助になればと思っています。


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